小宮隆太郎(27)前川リポート

米国への恭順露骨に
「黒字減らす」は見当違い

東大医学部教授だった沖中重雄氏は1963年の最終講義で自分の「誤診率」は14.3%だったと率直に語った。

私自身の誤診率はどれほどだろうか。経済問題に関する発言での成績で言えば「クンロク大関」より少しましな九勝三敗三分けぐらいか。

「引き分け」は、私も相手も「自分が勝った」と考えているケースである。86年の「国際協調のための経済構造調整研究会報告書」(前川リポート)は私の批判の相手方がまだ自分たちは正しかったと思っているので「引き分け」に入る。

例えば、加藤寛氏は「私の履歴書」で前川リポートを「空想画」と批判した私に対して「批判者のように経済学の世界に閉じこもって、どうして政策論がでてくるのかが分からない」と反論している。

金森久雄氏も同欄で「これがその後のバブル経済のもとになったという批判もある。

恐らくそれは正しくない」と書いた。私は日本の黒字を減らすための放漫な金融政策や、日米構造協議で政府が対外公約した「公共投資430兆円」がバブル経済の背景になっていると思う。

私に言わせれば「前川リポート」は、中曽根康弘首相が訪米してレーガン大統領に会うときに、「恭順の意」を表すためにアメリカ側が気に入るようなことを書いて持っていったという感じである。同リポートに対して、C・ヤイター米通商代表は「首相が訪問国の喜びそうな報告を発表するのは日本のいつものやり方だが、危険なゲームだ」と批判した。書いてある中身も経済学的な批判に堪えない間違ったことばかりだ。

まず、「前川リポート」は日本の黒字は、自動車の輸出を減らし、石炭の輸入を増やすことで部分的に直せると考えている。国際収支に関するマクロ経済学をまるで理解していない。

次に「経常収支の黒字が申し訳ない」という発想だ。歴史的に考えると、イギリスは大英帝国と呼ばれた時代に今の日本とは比べものにならない膨大な経常収支の黒字を出している。その黒字を対外投資に使って大英帝国のみならず世界中に資本を供給した。

資本の余っている国が資本を供給して世界全体が発展するのは自然である。

国際法的には、国際通貨基金(IMF)協定上、黒字国が黒字を減らさなければならない理由は一切ない。赤字国で外貨準備が減れば赤字を減らす努力をしなければならないだけのことである。

前川リポートは「経常収支の黒字を減らす」一方で「対外援助を増やそう」と言う。だが、対外援助を増やせば経常収支の黒字は増える。国際収支の複式簿記を理解していないのだ。

政治学的には、国際政治、外交の基本は、主権国家は対等だということだ。各国内の自由民の「人格の対等」と同じである。

サンフランシスコ講和条約に調印した後、吉田茂首相は日本の外務省とGHQが相談して作った英語の原稿を読むことになっていた。これに白洲次郎氏は「日本は戦争に負けただけで奴隷になったのではない」と、非常に憤慨した。そして急きょ、日本語の原稿を日本側だけで作り、巻紙に墨でしたため、吉田首相は羽織袴で日本語でスピーチをした。日本が米国に「恭順の意」を示す前川リポートの姿勢が、私には耐えられなかった。(日本学士院会員)

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