戦う気持ちが明暗を分ける – 川淵三郎

サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」が北京五輪でベスト4に入った。この結果は偶然ではない。準決勝では、過去20戦して一度も勝っていない米国に対し一時リードを奪ったし、3位決定戦のドイツ戦でも、中身の濃い試合をした。優勝できる可能性すらあったと思う。

一方、男子のサッカー五輪代表は、1勝もできずに予選で敗退した。ナイジェリアなど世界トップレベルのチームが相手とはいえ、情けないと非難されても仕方がない結果だ。

自己犠牲で成り立つ勝利

ベスト4と予選敗退。明暗を分けた最大の要因は、「戟う気持ち」の差だ。女子はとにかくひたむきで、相手がどれだけ強くても食らいつく。そして、勝てるかもしれないという期待を抱かせてくれた。

それに対して、男子選手からは戦う気持ちが見えてこなかった。本当に限界まで戦ったとは言えないのではないか。この違いは、テレビでご覧になった方にも伝わったと思う。

男女が置かれた境遇の違いが、大きく影響していると思う。男子はほとんどがプロ選手で、北京で負けても生活の糧が失われることはない。Jリーグという華やかな舞台も用意されている。しかし、女子でプロ契約している選手はごく一握りにすぎない。

こんな話がある。2003年の女子ワールドカップで日本がドイツに大敗を喫した試合の後、私は選手を集めてこう聞いた。「何か問題はあるか、どんなサポートをしてほしい」。

当時私はサッカー協会の会長になったばかりで、女子の大会を視察するのは初めてだった。すると1人の選手がおずおずと手を挙げ、こう言った。「交通費を前払いしてください」

代表の強化合宿に向かうための交通費を、立て替えるのが辛いのだという。

女子選手の多くは、資金が潤沢とは言えないクラブで、自腹でサッカーを続けている。仕事を持ちながらサッカーに励んでいる選手も多い。彼女らの話を聞いて、合宿費の増額など、協会としてサポートを始めたが、まだ十分とは言えない。女子サッカーはまだ、選手の自己犠牲の下に成り立っていると言わざるを得ない。

そんな選手たちが、「女子サッカーを日本でメジャーなスポーツにしたい」という使命感から挑んだのが北京五輪だった。

何とかして勝って、女子サッカーを認めてほしい、盛んにしたいという気合が男子とは全く違う。この気持ちが、ベスト4躍進の原動力になった。

大切なのはトップの意思

しかし、この気合は長らく空回りしていた。ボールを持ったらただ闇雲に前に蹴り出すだけで、日本の女子チームには大きな戟略が欠けていた。この状況を変えたのが、2年前にコーチに就任し、昨年監督に昇格した佐々木則夫監督だ。

佐々木監督は就任後すぐ、エースとして君臨していた澤穂希選手のポジションを変えた。

一番強い選手をゴールに近い前線ではなく、後方に置き全体を指揮させる。これは強烈なメッセージとなり、チームを変えていった。ただ前に行くだけでは、簡単にボールを取られてしまう。しかし、揮選手を起点にすることで、強豪相手でもボールを回せるようになった。これがチームに自信を植えつけ、目指すサッカーの姿が見えてきた。そして、なでしこジャパンは急速に強くなった。

優秀な課長がいなければ、その会社は本当に強くなれないとよく言われる。しかし、その課長を生かすも殺すも社長次第。適切なポジションに置き、将来像を示さなければ、どんなに強い課長でも輝きを示せない。

最後に勝負を決めるのは、選手個々人の戦う気持ちの強さだ。それを十分に生かすには、トップがきちんと戦略を示す必要がある。両方がうまくかみ合った結果が、なでしこジャパンの快進撃だった。

日経ビジネス・終わらない話

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。