田淵節也(28)笹川平和財団

「清濁併せ呑む」器量
育っていい寄付の文化

僕はヂーゼル機器の株買い占め事件で知り合った笹川陽平君(日本財団会長)に頼まれ、一九八六年から笹川平和財団の会長をしている。当時は野村証券の会長だったので、瀬島龍三さんに頼みに行くと「田淵君、君がやればいい」と言われた。「無給」が条件というので引き受けた。

平和財団は陽平君のお父さんの笹川良一さんがつくった日本船舶振興会(日本財団)関連のNPO(非営利組織)だ。日本最大級の約八百億円の基金をもち、アジアを中心に非営利の組織や団体の国際交流活動を資金面で支援している。笹川さんが会長職を「無給」にしたのは、有給だと役人が天下りポストにするのを阻むための知恵だろう。

競艇の利権を握る船舶振興会は笹川さんが右翼の大物だったこともあり、世間から得体の知れない団体と見られている。ギャンブルの上がりを資金源にしているが、造船会社への低利融資や学術研究、ボランティアヘの支援など結構いいことをしている。

作家の曽野綾子さんが、やはり無給で日本財団の二代目会長に就任した時、聖書の言葉を引用して「仮に金の出所や動機が不純でも、その金をどう使うかが大事」と言ったのに僕も同感だ。日本は何でも税金で召しあげて役人が金の使い道を決める国だが、寄付や慈善事業など、民間が自分で金の使い道を選択する文化が育っていいと思う。

笹川さんと、そもそもの関係はない。一度だけ、中国に一緒に行ったことがある。八八年に、国連で日本の応援団を増やそうというので、笹川さんが太平洋の島国の元首をはじめ要人約二十人を東京に集めて国際会議を開いた時、手伝いをした。招待客に希望を聞くと、皆「万里の長城が見たい」と言う。引率して行ったのが笹川さんだ。

中国政府は国賓待遇で迎え、僕たちを釣魚台の迎賓館の貴賓室に泊めてくれた。豪華な朝食を前に、羽織袴の笹川さんは「生卵はあるか」と言い、ご飯に生卵をかけてかき込むと「ああ、うまかった」と言ったのを覚えている。

平和財団の活動が縁で、僕は北京大学の顧問教授を頼まれ、九六年から計六回、特別講義をするために中国を訪れた。発展著しいアジア経済の分析を中心テーマとし、アジア地域の統一通貨の重要性を強調した。北京大学の学生だけでなく、教授連中が大勢聴きにきて質疑応答もやるので準備が大変だった。

顧問教授は名誉ある肩書でどこへでも好きなところに連れて行ってくれ、訒小平氏にも何度か会った。実力者の部小平氏は「黒猫でも白猫でも鼠を捕る猫がいい猫だ」と言い放ったので有名だ。僕の印象では政治家というよりも、経営者に近い気がした。

人間の器量の大きさを指す「清濁併せ呑む」というのは好きな言葉だ。世の中には善い人間もいれば、悪い人間もいるが、本当に判別できるものなのか。何が清で、何が濁か、人間には分からない。神様だけがご存じで、評価はうんと後になってから分かる。

昔、運動選手は水を飲むなと言われたが、今はどんどん飲めというように変わった。奇麗事では商売にならず、奇麗事そのものも変わるから、奇麗事では誤魔化せない。ゴタゴタするとその時は嫌だなと思うが、振り返るとそれが人生で、そういうことが楽しかったのだろうと思う。人間、八十歳になると、そう思えてくる。

(野村証券元会長)

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