トーリ監督 LIFE&BALL – ジョン・トーリ 5

「一瞬で変わる流れ痛感」

松井は試合前も主役。爆笑の芸で結束力は高まった

シリーズが終了した翌日の夜、私は人気スポーツ番組「ボンバーエジアソン・ショー」という生番組に出演した。聞くところによると、日本的発想だと「敗軍の将は多くを語らず」ということだそうだが、宿敵ボストン・レッドソックスが世界一となり、私に対する周囲の関心もいつになく高いように感じた。野球ファンの要求に応えるのも、プロとしての仕事である。私は逃げるのは嫌いだし、二つ返事で生出演を引き受けた。

「いったい、あなたはどんな気持ちでレッドソックスの勝利を見届けたのか?」「ボストンが勝つとは思っていたか?」など、冒頭から容赦ない質問を突きつけられた。だが、私ははっきりと言った。「レッドソックスが4連勝して世界一になったことについて驚きはない。彼らの強さは、シーズンの戦い方、リーグチャンピオンシリーズの戦い方で十分に分かっていた」

これは偽りではなかった。本当の感想だった。それなら・・・と、ヤンキースファンなら言う人もいるだろう。「ボストン相手にヤンキースは3連勝し先に王手をかけていたではないか」と。「あとアウトカウント三つというところまで、追い詰めていたではないか」と。

でも、それが野球の怖さなのだ。いや、短期決戦、すなわちプレーオフの恐ろしさ、難しさでもあるのだ。我々は決して油断したわけではなかった。だが、一つのプレーが、一瞬にして「流れ」を変えることがある。レッドソックスは結果的に、ワールドシリ」ズまで一気にその流れを自分たちのものにしてしまったわけだ。

それではヤンキースはどこで流れを変えられたのか。リーグ優勝決定シリーズの勝負の分かれ目はどこだったのか。日本でテレビ観戦していた多くの方は「第4戦の″あの盗塁″」と答えるかもしれない。勝利まであと三つと迫った九回、無死一塁から代走ロバーツに盗塁を許し、ミューラーの中前適時打で追いつかれ、後続は断ったものの、五番手のクアントリルがつかまり延長サヨナラ負け。ボストン4連勝の足がかりとなった、そう、あの盗塁だ。

米国のテレビや新聞も連日、その場面をクローズアップしていたし、実際、評論家もそう見る人たちは多かった。無死から「走るぞ、走るぞ」と見せかけ成功した積極的な走塁は、「やっぱり」という思いと同時に「まさか」という気持ちにさせた。やられた方は心理的ダメージを受け、仕掛けた方はチームに勢いをつけたとみたのだ。しかし、私はそうはみなかった。

あれがなければ・・・・というつもりは毛頭ない。ただ振り返って何が大きかったかといえば、私は松井の打席を真っ先にあげるだろう。覚えていらっしゃるだろうか。第5戦の4-2でリードした六回二死満塁、ペドロ・マルティネス投手を相手に松井が右中間に放ったライナーを。打った瞬間に抜けると確信するほどの会心の当たりだった。ところが守備がそれほど評価されていない外野手(ニクソン)がそれをダイビングキャッチ。その後、チームの歯車が少しずつ狂い始めたのだった。

もしあの場面で外野手が守備に定評のある選手だったら、あのプレーはさほど意味を持たなかったかもしれない。無難に打球を処理し、マウンドのマルティネス投手もあれほど喜びを表さなかったろう。また、ヒットになったとしても、同じことが言えたのではないかと思う。なぜなら、打者は松井。それまで手が付けられないほど打ちまくっていたヤンキースの四番打者なのだ。すべては守備力が評価されていなかったニクソンがダイビングキャッチを試み、美技を披露したところに意味があったわけだ。

実際、あの直後、ボストンの本拠地フェンウェイ・パークは大騒ぎとなった。一つのプレーがチームカを結束させ、勝利への連鎖反応を起こしたのだった。

チーム力の結束といえば、日本の皆さんに対し、こっそりと話しておきたいことがある。あのシリーズでの松井の活躍は目を見張るものだったくだが、彼の活躍はなにもグラウンド内だけに限ったことではなかった。試合前のクラブハウスでも主役は松井だった。実はミーティングの最後に、松井が皆の前で、芸を披露してくれていたのだ。これはとても面白いものだっが。時にはプラックジョークだったり、寸劇だったり。詳細を公表できないのは誠に残念だが、通訳を介さず、松井が必死にしゃべる英語は、ある意味とても新鮮だった。

ネタはその日その日でスタッフが考えていたようだが、皆を笑わせて気持ちよくグラウンドに送り出してくれたのも松井だった。松井だったからこそ意味があり、ナインもみな大笑いしていた。彼はチームのムードメーカーとして、結束力を高める重要な存在になっていたのだ。

このシリーズでも数人のキーマンが現れた。ロパーツ、ニクソン、松井・・・。勝利にとってキーマンは重要な存在である。だが、これはなにも野球に限ったことではない。社会にもビジネスにも当てはまることなのだ。

About sayfox
Bubbles of river disappear rapidly.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。