トーリ監督 LIFE&BALL – ジョン・トーリ 2

手ごわい上司の操縦術
かのスタインプレナー氏との関係でも原則は同じだ

素晴らしいゲームだった。ヤンキースタジアムで行われた二十二日のトロント・ブルージェイズ戦。両軍先発の好投で無得点のまま九回の攻防を迎えた試合は、ルーベン・シエラ右翼手のソロ本塁打により、ヤンキースが1-0でサヨナラ勝ちを収めた。

このところ、この三十八歳のベテランの活躍ぶりが目に付く。先日も3試合連続本塁打を放ち、チームを引っ張ってくれた。彼は毎日ゲームに出続けるプレーヤーではないけれども、本人は私の方針に同意し、ベストを尽くしてくれている。また、プエルトリコ出身ということもあり、チーム内では中南米諸国出身の選手をまとめながら″良き兄貴分″としての役割も果たしている。

シエラは数年前に一度、ヤンキースを放出され、昨年再び戻ってきた。大リーグでは、そういった選手は珍しくないが、彼がチームを去った時はメディアでもしばしば取り上げられた。先発出場に固執する彼の考えと、現場との考えがぶつかり、彼がトレード志願をほのめかしたのだ。

当時の指揮官は私だった。周囲からは不仲説など様々な憶測が流れたが、私はあまり気に心なかった。私は彼の意見を尊重し、彼も私の考えを理解してくれていた。そうでなければ時間がたった今、こうした関係を築くことは難しい。人間関係ほどややこしく、難しいものはないからだ。

このことについて読者の中にも、ピンとくる人が多いかと思う。手ごわい上司が立ちはだかり、仕事がうまく運ばないことがある。やりにくい上司に仕えたことがある人や、現に仕えている人なら、私の言わんとすることがおわかりだろう。

誰もが毎日、厄介な問題やしつこく続く障害にもめけず、職責を果たすべく奮闘している。それなのに、上司は仕事をますますやりにくくする元凶でしかない。仕事を任せるべきなのに、余計なくちばしをはさむ上司もいれば、いやによそよそしくて、指図するどころか何の力にもなってくれないタイプもいる。しょっちゅう口うるさく言うボスにあたったら、職場は居心地が悪くなる。

ボスがうるさ型だろうと、無干渉派だろうと、怒りっぽかろうと、こんなとき人はうまく対処できる手立てがあればいいと考える。そんな上司に自分の権限を奪われたと感じて、何とか取り戻そうとするかもしれない。

私は野球人生で何人もの手ごわいボスとつきあい、うまくやるにはどうすればいいか、身をもって学んできた。私の仕えた上司で日本の皆さんに最も知られているのは、現在のボス、ヤンキースのジョージ・スタインプレナー・オーナーだ。

たいていの人はジョージを極めつきのタフなボスとみている。ジョージは出しゃばりで、わがまま、ワンマンだというのが定評だ。私がヤンキースに入るまでに、ジョージは二十二年間オーナーをつとめていて、その間に二十一人もの監督をクビにしてきた。私もいつクビになるかと思いながら指揮をとってきたが、どうやら私のやり方にはジョージは同意してくれているようで、信頼を寄せてくれている。

理由は色々とあるが、実はこれまで自分なりに守ってきていることが三つある。それを今回は読者の皆さんにそっと紹介しよう。

まずは自分の方針や信念を上司に主張する。組織の利害を一番に考えていることを上司に分からせるのだ。その際、エゴは捨てること。この場合のエゴとはうぬぽれ、自専心と理解していただきたい。自分が正しいと主張するまでもないときは、無用なあつれきを避けることも大切なことだ。ただ、自分が信じる原則と目標のためには闘うことも忘れてはならない。上司による、自分の尊厳を損なうような屈辱、嫌がらせ、攻撃には対抗することも必要なのだ。

二つ目に、上司にほどよい服従心を与え、距離を置き、かつ腹を割った対話を心がけることを勧めたい。服従心を示すとは忠誠心を示すことであり、屈服することではない。また上司を分析することも大切なことだ。相手を知ればコミュニケーション手段も分かる。上司が神経質だったり、興奮しやすいタイプなら、安心させるテクニックを磨き、打てば響くようなタイプな最もっぱらユーモアと軽い調子を心がけることも技術だ。要は頭を働かせるのだ。

最後に私があげたいの上司と信頼し合うこと。当たり前といえば当たり前なのだが、これが一番難しい。上司はもともと組織内で力があり、部下とは対等な関係ではない。しかし、決して上司の地位や権力をうらんではいけない。また彼らの風評を恐れてもいけない。自分なりの関係を築き、積極的な姿勢で臨むことが必要だ。

ただ単に不愉快な上司と、あからさまに口汚ごののしるタイプの上司を見分けなくてはいけない。なぜなら前者とはうまくやっていけるが、後者とやっていくのは明らかにムリだからだ。そろいう時は、次の上司に期得するしかない。

シエラとスタインプレナー・オーナー。立場は違っても、彼らにもこの三つの法則は通用している。

【ジョージ・スタインプレナー】造船業で成功、1973年にヤンキースを買収。監督を容赦なく解雇したり、有力選手の相次ぐ補強で有名。74歳=写真?、AP

日本経済新聞

2004年(平成16年)7月27日(火曜日)

人の運命は九割は自分の不明による罪だ

by 司馬遼太郎(竜馬がゆく)

楽観主義

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意思に属する。
成り行きに任せる人間はみんなふさぎ込んでいるものだ。

アラン「幸福論」より
H16.7.25

人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり

by 武田信玄