トーリ監督 LIFE&BALL – ジョン・トーリ 1

ヤンキース・トーリ監督に聞く

不屈 そして失敗から学べ

タンパベイ・デビルレイズとの公式開幕戦(30、31日)で来日したニューヨーク・ヤンキースのジョー・トーリ監督(63)は、剛腕というより「気遭い」の人である。全員によるミーティングは好まない。一対一の率直なコミュニケーションを大切にし、互いの「信頼」で「意欲」をかき立て、チームを成功に導いてきた。イタリア系アメリカ人はちょっとこわもてだが、ユーモアのセンスあふれる哲人だった。

大リーグ世界化 

トーリ監督との一間一答は次の通り。

―― 米大リーグの国際戦略の一環として、今回、ヤンキースが日本で開幕戦を行うというのは驚きである。

「三十年前、メッツの選手として来日したが、その時も大リーグヘのあこがれから信じられないような熱狂ぶりがあった。現在は多くの日本人選手がメジャーでプレーしているが、注目すべきは単にプレーしているのではなく、スターとして輝いていることだ。メジャーはいかに米国とカナダから外に出てグローバル化するかということに気がついた。私にとっては(日本での開幕戦は)驚きではない」

―― 三十年前は、ハンク・アーロンと王貞治の本塁打競争も行われた。

「グラウンドで見ていた。よく覚えている。王は魅力的な男で、おしゃべりを楽しんだ。10本対9本で、アーロンの勝ちだったが、このころからメジャーで本塁打が量産されるようになった」

―― あなた自身は一九七一年に最高打率の3割6分3厘を記録した。

「打率よりも驚くべきは、私は走るのが遅いのに、59本も三塁打を打っている。これはあの名遊撃手、オージー・スミスよりも多いということをファンレターで知った」

選手と信頼感

―― 監督はいつも寡黙で、感情を衰に出さないようにさい配をふるっているように見える。かつての名物監督、ビリー・マーチンとは対照的だ。

「私の個性なのだろう。ビリーはスタインプレナー・オーナーのお気に入りの熱血漢で、彼より野球を知っている人間はいない。ピネラ(デビルレイズ監督)もそうだが、大声で叫び、選手のチャレンジ精神を呼び起こす。私は違う。選手を納得させようと努める。ニューヨークはストレスやプレッシャーが多いので、その影響を鎮め、状況が悪くても信頼感を選手と共有したい。パニックにならないのは私の性格だろう」

「ヤンキースに来る前、努力しても勝てなかったので、変えなければならないと思った。監督は勝利によって判断されるからだ。だが、できなかった。私は私だ。誰かの真似(まね)をしても長続きせず、自分自身に戻ってくる。私は公平でありたい。全員を同じに扱う必要はないが、公平に扱っていると思う。選手に対して正直であり、私の意図をわかってくれるので、仕事はやりやすい」

―― 監督としての心がけは

「ゲームを単純化するのが私の哲学だ。個人として他者よりもべターな必要はなく、選手は勝つための責任をもって球場にやって来る。一人のプレーだけでは、試合は優勢にならない。この意味で、1年目から一緒にやっているジーターは偉大なリーダーで、私の誇りだ。私が選手に理解を求める唯一のことは、互い敬意を持たなければならないということだ」

「九六年、ヤンキース監督になった年、(私の経歴で唯一欠けていた)ワールドシリーズを制した。八年のうち六回、同シリーズに進出しているが、翌年も同じ成功のための方策を考えるのは退屈でも疲れることでもない。パズルを組み合わせるように、異なる個性を互いにフィットさせ、この特別なチームを発展させるのは挑戦でもある」

2年契約延長へ

―― 個性が強いオーナーとの折り合いは。

「何をキープし、何を捨てるかを決めるのは、ボスであるスタインプレナー氏だ。彼は良いチームを私に与えるため多くお金を使うが、すべての試合を勝ちたいという情熱がある。ニューヨーク市民はそれを評価している。一昨年、エンゼルスに敗れたとき、彼は動転して私のコーチ陣を批判した。私を批判するならいいが、スタッフはよくやっている。彼は別人のようだった。しかし、今春、彼は私が来年も監督をやる気があるか尋ねてきた。今、二年間の契約延長を話し合っている」

―― やはりヤンキースは特別なのか。

「ヤンキースを知るのにあなたが野球ファンである必要はない、という以外にヤンキースを説明できない。ブルックリン育ちの私は五〇年代、ナ・リーグのニューヨーク・ジャイアンツのファンで、常勝のヤンキースは好きではなかった。しかし、ヤンキースは多くの伝統を作ってきたし、プロスポーツを変えてきた。チーム内の個人ではなく、ヤンキースそのものがスターなのだ。ユニホームを着れば、心の高鳴りと誇りを感じる。順調な時ばかりではない。不屈と決意と献身、そして失敗から学ぶことだ」

(聞き手は運動部長 工藤憲雄)

「ゴジラ松井をどうみる」

実は当初心配した

今季は25本いける

―― 今期の松井をどう見るか。

「昨季は16本塁打で、そこそこの働きはしたと思う。打者、とくにホームランバッターが違うリーグでプレーするのは大変なことだ。日本で50本塁打を打っていると聞いていたが、実は当初は心配していた。投手なら、ホームプレートの大きさやマウンドからの距離など、リーグで違うことはあり得ない。だが、打者は投手の癖や球種、球速など千差万別の状況の変化に対応しなければならない。並大抵のことではない。しかし、松井は一年やってみて、大リーグの投手にもかなり慣れてきた。昨年春はツーシームに悩まされたが、今季は25本塁打は期待できると思う」

―― 松井はマルチに進化しているということか。

「他の選手に、いかにゲームをするか松井をモデルとするよう言っている。彼の準備、試合に臨む姿勢を整える姿を見るように。駿足ではないが、ベースランニングがいい。監督にとって、扱いやすい選手だ」

「特にイチローとの対比で興味をもって見ている。イチローはスピードがあり、人を引き付けるエキサイトメントをもっている。松井はハード、ブルーカラーといったイメージ。松井は泥臭く、勝負強い打者だ。ややスイングが長いのだが、彼はそれをコントロールし、ボールを場外に運ぶ能力をもっている」

―― 松井にとってもあなたは慈父のようだ

「そう。ゴジラとゴッドファーザー。他の選手もみな私の子供のようだが、彼らをコントロールしょうとは思わない。彼らが準備し、ベストを尽くすなら、私は結果は気にしない。彼らと話すときはいつもジョークで、みんなヒデ
キにいろんな言葉を教えており、私は賢い野球を彼に語っている。彼は試合に対しきまじめだが、ユーモアもある。素晴らしい人格だ」

―― 日本人選手がいることでチームに良い影響はあるか。

「三十年前、体格的な問題もあり、彼らが我々のレベルまで追いつけるとは思わなかった。ヒデキとイチローはそこから抜け出ている。米国では、能力にこだわるあまり、いかにゲームをするかを忘れてしまう。我々が時間をかけて話し合う細かい点を、日本人選手はうまくこなす。細かいことができないうちは、いい仕事はできないのだ」

トーリ監督

1940年、米ニューヨーク州ブルックリン生まれ。77年のメッツからプレープス、カージナルスの各監督を経て96年ヤンキース監督。同年にチーム18年ぶりのWシリーズ制覇。

この8年間で6度Wシリーズに進出、うち優勝4回。選手キャリア17年、60年にプレーブスから捕手でメジャーデビュー。通算打率2割9分7厘、本塁打252本。71年にカージナルスで3割6分3厘、137打点の2冠。オールスター9回出場。

ヤンキース・トーリ監督の成績

1996 Wシリーズ制覇
1997 地区シリーズ敗退
1998 Wシリーズ制覇
1999 Wシリーズ制覇
2000 Wシリーズ制覇
2001 Wシリーズ敗退
2002 地区シリーズ敗退
2003 Wシリーズ敗退

長所・短所

長所を見ることに七の力を用い、短所を見ることに三の力を用いる。

松下幸之助

天才

天才とは、人より優れた忍耐をする能力である。

ベンジャミン・フランクリン

自尊

自らを尊しと思わぬものは奴隷なり。

by 夏目漱石

時間

一日延ばしは時の盗人である。

上田敏